椿に想う*寒椿 vol.257
数年前に他界した母が好きだった花が椿だった
母は私が子供の頃に父とは離別し
私たち三姉妹が独立してから亡くなるまで数十年間一人暮らしをしていた
買い物好きだった母の遺品整理をした時に
思いよらぬ品が出てきた
対の椿の柄のご飯茶碗
全く使ってはおらず木箱に大事に仕舞われていた
有田焼の染付で淡いピンクの椿が三輪
茶碗を伏せて置くとバランス良く見える構図で描かれていて
糸底には銘も入っている
デパートの工芸展で見つけたものだろうか
手に取ると冷たく滑らかな瀬戸の肌触りが心地よく
私は両手に二つの茶碗を持ちしばらくの間見つめていた
母も同じように見つめたのだろうか
一人暮らしには不要の対のご飯茶碗
どんな気持ちで買い求めたのだろう
それは私の好みとも一致した
早々に炊きたてのご飯をついでご飯を盛ると上品この上なく
使いやすさと美しさに日常で使うことにした
もったいぶって取っておくのは嫌いな性分だ
けれどまもなく洗っている時に手から滑り落ち
あっけなく片方を割ってしまった
真っ二つに割れた姿に母の気持ちが宿っているような心地悪さを感じた
残ったご飯茶碗は伏せた姿で出番もなく食器棚に収まっている
水彩画は紅色の椿、田舎の一軒家さんの椿です
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